韻母
韻母(いんぼ)とは、中国語の音節の構成要素の一つ。1音節内で声母(頭子音)の後に続き、声調を除いた母音を中心とした部分をいう(声調も韻母に含める場合がある)。
韻母は、介音(半母音)・主母音・尾音(鼻音か二重母音を構成する補助的な母音)で構成される。韻母の中における部位を表す用語としては、介音を韻頭、主母音を韻腹、尾音を韻尾と呼ぶ。
また韻文の押韻や韻書の分類には、介音を除いた韻腹と韻尾部分および音節全体にかかっている声調(四声)を区別したものが用いられ、これを韻(いん)と呼ぶ。
音節 | 音声学 | 音韻学 | ||||||||
Onset | Rime | 声母 (Initial) |
韻母 (Final) | |||||||
韻頭 (Medial) |
韻 (Rime) | |||||||||
Pinyin | IPA | Nucleus | Coda | 韻腹 (Nucleus) |
韻尾 (Coda) | |||||
e | [ɤ] | [ɤ] | ø | ø | [ɤ] | ø | ||||
ai | [aɪ] | [aɪ] | ø | ø | [a] | [ɪ] | ||||
yue | [yɛ] | [yɛ] | ø | [y] | [ɛ] | ø | ||||
wang | [uɑŋ] | [uɑ] | [ŋ] | ø | [u] | [ɑ] | [ŋ] | |||
yao | [iaʊ] | [iaʊ] | ø | [i] | [a] | [ʊ] | ||||
ma | [mɑ] | [m] | [ɑ] | [m] | ø | [ɑ] | ø | |||
pin | [pʰin] | [pʰ] | [i] | [n] | [pʰ] | ø | [i] | [n] | ||
xuan | [ɕyɛn] | [ɕ] | [yɛ] | [n] | [ɕ] | [y] | [ɛ] | [n] | ||
guo | [kuo] | [k] | [uo] | [k] | [u] | [o] | ø | |||
liu | [liɤʊ] | [l] | [iɤʊ] | [l] | [i] | [ɤ] | [ʊ] |
特徴
編集例として、「東」字の発音は標準中国語(普通話)では dōng と表記されるが、このうち d は声母、-ong が韻母、¯ が声調である。この場合、介音はゼロで、-o-が主母音、-ngが尾音である。なおこの韻母は注音字母にしたがって分けると、介音 -u- と、韻腹と韻尾 -eng からなる。
また、「光」字の発音の例では、標準中国語(普通話)では guāng と表記されるが、音節の構成部分に分けると以下のようになる。
音節 | ||||
声母 | 韻母 | 声調 | ||
韻頭 | 韻腹 | 韻尾 | ||
介音 | 主母音 | 尾音 | ||
g | u | a | ng | 1 |
これらの構成は、r化しない音節では、普通話・方言を問わず共通している。r化した音節では上記から外れている音節の例がみられる。
また、伝統的な音韻学では韻母を介音の特性から、開口呼・斉歯呼・合口呼・撮口呼の 四呼によって4つに分類し、韻尾の特性から陰声韻(母音で終わるもの)・陽声韻(鼻音韻尾)・入声韻(閉鎖音韻尾)の3つに分類する。
現代中国語の韻母
編集現代中国語(普通話)では39の韻母が設定されている。(r化を除き)
開口呼 | 斉歯呼 | 合口呼 | 撮口呼 | |
---|---|---|---|---|
単韻母 | -i | i | u | ü |
a | ia | ua | ||
o | uo | |||
e | ||||
ê | ie | üe | ||
er | ||||
複韻母 | ai | uai | ||
ei | uei | |||
ao | iao | |||
ou | iou | |||
鼻韻母 | an | ian | uan | üan |
en | uen | |||
in | ün | |||
ang | iang | uang | ||
eng | ueng | |||
ong | iong | |||
ing |
中世中国語
編集「韻書」で使われる韻字には平・上・去・入の声調の違いによって異なる字が使われた。語尾子音のうち内破音の[ p̚]、[ t̚]、[ k̚]は尾音[m]、[n]、[ŋ]の入声とされ、[m]と[ p̚]、[n]と[ t̚]、[ŋ]と[ k̚]はそれぞれ同じ尾音と考えられている。
なお韻と韻母は正確には同じではなく、韻とは韻母のうち主母音と尾音、それに声調を加えたものである。このため、漢詩で押韻する場合、韻母をそろえることが必要であるが、介音は必ずしも一致する必要は無く、主母音と韻尾、声調が一致していなければならない。
六朝から唐代の中国語についてまとめた『広韻』では、206韻が設けられ、その内訳は、上平声28韻、下平声29韻(平声を表す字が多いので上下2巻に分けられた)、上声55韻、去声60韻、入声34韻であった。その後、漢詩の押韻の規範となる「平水韻」では、これを106韻に整理し、上平声15韻、下平声15韻、上声29韻、去声30韻、入声17韻の韻目が建てられた。
近世中国語
編集元代に北曲をもとに作られた『中原音韻』では、中原地方における中国語では入声が消滅したことを反映して、入声が平声・上声・去声のどれに変わったかを示している。また、韻目を19韻にまとめて、同韻の字を集めた上で、それぞれがどういう声調であるかを示している。