聖なる犯罪者
『聖なる犯罪者』(せいなるはんざいしゃ、原題:Boże Ciało[注釈 1]、英題:Corpus Cristi)は、2019年のポーランド・フランスのドラマ映画。監督はヤン・コマサ、脚本はマテウシュ・パツェヴィチュ[6][7]、出演はバルトシュ・ビィエレニアとエリーザ・リチェムブルなど。ポーランドで実際に起きた事件をもとに、少年院で信仰心に目覚め、仮釈放された20歳の青年が司祭だと嘘をついたことから聖職者として第二の人生を歩み始めるさまを描いたサスペンスドラマ[8]。
聖なる犯罪者 | |
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Boże Ciało | |
監督 | ヤン・コマサ |
脚本 | マテウシュ・パツェヴィチュ |
製作 |
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出演者 | バルトシュ・ビィエレニア |
音楽 | エフゲニー・ガルペリンサーシャ・ガルペリン |
撮影 | ピョートル・ソボチンスキー・Jr |
編集 | プシェミスワフ・クルスチェレウスキー |
製作会社 | オーラム・フィルム |
配給 |
キノ・シュフィアト ハーク |
公開 |
2019年8月29日 (VIFF) 2019年10月11日 2021年1月15日 |
上映時間 | 116分[1] |
製作国 | |
言語 | ポーランド語 |
製作費 | $1,300,000[3][4] |
興行収入 | $8,600,000[3][5] |
第76回ヴェネツィア国際映画祭[9]のヴェニス・デイズ部門でプレミア上映された、この他に第44回トロント国際映画祭のコンテンポラリー・ワールド・シネマ部門でも上映された[10]。ヴェニス・デイズでヨーロッパ・シネマ・レーベル賞とエディポ・レ・インクルージョン賞を獲得した[11][12][13]。第92回アカデミー賞国際長編映画賞にはポーランド代表作として出品され[14]、ノミネートを果たしたが受賞は逃した[15]。
日本語字幕は小山美穂。
ストーリー
編集ダニエルは、第二級殺人の罪で少年院に収監されている間に信仰心に目覚めるが、犯罪歴があるため、神職には就けなかった。仮出所で、ある村の製材所で働くことになったダニエルは、真っ先に村の教会を訪れ、そこで出会ったマルタに、勢いで神父だと見栄を張った。ところが、この教会の司祭は病気療養のため留守にする予定で、ダニエルは代理の司祭と思い込まれ、そのまま教会に住み込むことになってしまった。
スマホで手順を調べつつ、神父の仕事を楽しくこなして行くダニエル。村の教区民は「トマシュ神父」ことダニエルの風変わりな儀式と説法――彼が説法壇で行った殺人犯であるという自白さえも――好意的に受け入れていった。しかし、村には、数か月前に起きた悲惨な交通事故が暗い影を落としていた。6人の若者が乗る車が対向車と衝突し、双方の乗員7人が亡くなったのだ。村人たちは、対向車を運転し死亡した中年男スワヴェクの飲酒運転が原因だと決め付け、スワヴェクの遺灰を他の犠牲者とともに村の墓地に埋葬することを拒んでいた。
スワヴェクの未亡人の家を訪ねるダニエル。未亡人は、夫が酒を断っていたこと。埋葬を望むことをダニエルに訴えた。しかし、彼女の元には憎しみのこもった多くの脅迫状が届いていた。
マルタの兄も事故で亡くなっていた。だが、スワヴェクの埋葬に賛成するマルタ。実は彼女だけは、兄の遺品のスマホの映像から、若者たちこそ飲酒運転だったことを知っていたのだ。ダニエルとマルタは、脅迫状を村人たちに突きつけて反省を促し、ダニエル一人でもスワヴェクの埋葬を行うと発表した、その晩、母親から家を追い出されたマルタは、ダニエルと一夜を共にした。
埋葬式が行われるなか、村人の多くが憎しみを捨て、弔問に訪れた。だが、続く葬儀ミサの前に、少年院でダニエルを導いた本物のトマシュ神父が村に現れた。トマシュ神父は、村の新しい司祭代理が偽物であるという密告を受け取っていたのだ。すぐに荷物をまとめるよう命じられるダニエル。しかし、ダニエルは、トマシュが目を離した隙に窓からこっそり抜け出し、教会での「別れのミサ」に向かった。ミサが始まろうとするそのとき、ダニエルは司祭服を脱ぎ、参列者の前で身体に入ったタトゥーを晒し、そして教会から走り去った。
ダニエルは、彼が殺害した男の兄、ボーヌスが受刑者として収容されている少年院へと、再び送られた。二人は、他の受刑者たちの前で血まみれの喧嘩を繰り広げるが、勝ったのはダニエルの方だった。火事になった建物の前で、他の受刑者たちが無言で見守る中、ダニエルは、血走った固い表情のまま、少年院から立ち去って行くのだった。
キャスト
編集※括弧内は日本語吹き替え版
- ダニエル: バルトシュ・ビィエレニア - 少年院を仮出所したばかりの青年。(寺島拓篤[16])
- リディア: アレクサンドラ・コニェチュナ - 町の教会の会堂司。(浅井晴美[16])
- マルタ: エリーザ・リチェムブル - リディアの娘。(伊瀬茉莉也[16])
- バルケビッチ: レシェク・リホタ - 町長。
- トマシュ神父: ウカシュ・シムラト - ダニエルを信仰に目覚めさせた神父。
- ピンチェル: トマシュ・ジェンテク - ダニエルと同じ少年院から仮出所した青年。(水野駿太郎[16])
- エヴァ: バーバラ・クルザイ - 未亡人。交通事故を起こして亡くなった運転手、スワヴェクの妻。
- ヴォイチェフ・ゴウォンプ司祭: ズジスワフ・ワルディン - 町の教会の高齢の司祭。アルコール依存症。
製作
編集『聖なる犯罪者』の脚本はクリストフ・ラクの協力の下でマテウシュ・パツェヴィチュが執筆したが、監督のヤン・コマサはそれを読んだ後、ストーリー、特にダニエルのキャラクターを掘り下げる必要があると感じ、「問題を抱えた背景」が追加された。コマサはまた登場人物たちにトラウマを引き起こした自動車事故は2010年にポーランドの大統領や高官たちを含む96名が死亡したスモレンスク航空事故の象徴であると述べた[17]。撮影は「厳然として、彩度の低い」フィルターを通して行われた[18]。
ある男性がこの映画は物語が自身の実体験に基づいておりながら、製作者たちが一切連絡しなかったと主張した。製作側はその男性の人生には基づいておらず、聖職における様々な不正行為の事例に基づいていると反論した[19]。パツェヴィチュは偽司祭事件はポーランドでは頻繁に起こっており、数ヶ月ごとに新事件が発生していると述べた[20]。
撮影のほとんどはポーランド南東部のヤシリスカで行われた。場面の1つはタバショバロジノフスキエ湖のはしけで行われた[21]。また、ポーランドでは教会内の撮影が禁止されていることから、教会のシーンの撮影は全てチェコで行われた[22]。
評価
編集批評家の反応
編集レビュー収集サイトのRotten Tomatoesでは99件のレビューで支持率は98%、平均点は8/10、批評家の一致した見解は「バルトシュ・ビィエレニアの印象的な演技に率いられ、『聖なる犯罪者』は信仰と贖罪の問題を思慮深く、かつ魅力的に考察している。」となった[23]。『バラエティ』のピーター・デブルージは自身にとってソープオペラの思えるプロットポイントがいくつかあるにもかかわらず、この映画が「見事」で「静かに破壊的」であると評した[24]。RogerEbert.comのクリスティ・レミールは「ビィエレニアは説得力に欠かない」と評した上で、「これは重層と矛盾に満ちた複雑なキャラクターである」と述べた[25]。『ワシントン・ポスト』のアン・ホーナデイは映画を「心に染み入るような、精神的に同調したドラマ」と呼んだ上で「ビィエレニアは呪われた禁欲主義を完璧に体現している」と評し、さらに「コマサの慎重なフレーミングと照明は、ある瞬間には無邪気に見え、次の瞬間には凶暴に見える」と述べた[26]。ポーランドの雑誌『ポリティカ』のヤヌシュ・ヴルブレフスキーはこの映画を古典的な西部劇映画よりもサスペンスに満ちていると評し、ポーランドの過去の複雑さを克服する方法を賞賛した[27]。
受賞とノミネート
編集映画祭・賞 | 部門 | 候補 | 結果 |
---|---|---|---|
アカデミー賞[15] | 国際長編映画賞 | 『聖なる犯罪者』 | ノミネート |
ポーランド映画賞[28] | 作品賞 | ヤン・コマサ、レゼク・ボザック、アネタ・セブラ=ヒッキンボサム | 受賞 |
監督賞 | ヤン・コマサ | 受賞 | |
主演男優賞 | バルトシュ・ビィエレニア | 受賞 | |
主演女優賞 | アレクサンドラ・コニェチュナ | 受賞 | |
助演男優賞 | ウカシュ・シムラト | 受賞 | |
トマシュ・ジェンテク | ノミネート | ||
助演女優賞 | エリーザ・リチェムブル | 受賞 | |
脚本賞 | マテウシュ・パツェヴィチュ | 受賞 | |
撮影賞 | ピョートル・ソボチンスキー・Jr | 受賞 | |
編集賞 | プシェミスワフ・クルスチェレウスキー | 受賞 | |
音楽賞 | サーシャ・ガルペリン | ノミネート | |
プロダクションデザイン賞 | マレク・ザヴィェルハ | ノミネート | |
音響賞 | トマシュ・ヴィツォレク、カクペル・ハビシアック、マルシン・カシンスキー | ノミネート | |
衣裳デザイン賞 | ドロタ・ロケプロ | ノミネート | |
ディスカバリー賞 | マテウシュ・パツェヴィチュ | 受賞 | |
観客賞 | ヤン・コマサ | 受賞 |
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b Hunter, Allan (29 August 2019). “‘Corpus Christi’: Venice Review” (英語). ScreenDaily 6 February 2020閲覧。
- ^ “Corpus Christi” (英語). TIFF. 6 February 2020閲覧。
- ^ a b Barraclough, Leo; Barraclough, Leo (7 December 2019). “Poland’s Oscar Entry ‘Corpus Christi’ Scores at Home and in International Markets” (英語). Variety 2020年10月5日閲覧。
- ^ Grynienko, Katarzyna (1 January 1970). “PRODUCTION: Jan Komasa Shoots Corpus Christi” (英語). FilmNewEurope.com 2020年10月5日閲覧。
- ^ “Corpus Christi” (英語). Box Office Mojo. 2020年10月5日閲覧。
- ^ “Jan Komasa’s Corpus Christi enters post-production” (英語). Cineuropa. 16 August 2019閲覧。
- ^ “BOŻE CIAŁO” (英語). giornatedegliautori.com. 2020年10月5日閲覧。
- ^ “聖なる犯罪者”. WOWOW. 2021年11月6日閲覧。
- ^ Vivarelli, Nick (23 July 2019). “Transgender Immigrant Pic ‘Lingua Franca,’ Thriller ‘Only Beasts’ to Bow at Venice Days” (英語). Variety 23 July 2019閲覧。
- ^ Fleming, Mike Jr. “Toronto Adds The Aeronauts, Mosul, Seberg, & More To Festival Slate” (英語). Deadline.com 16 August 2019閲覧。
- ^ “GdA audiences vote in Arab Blues.The Label goes to Corpus Christi” (英語). giornatedegliautori.com (2019年9月6日). 7 September 2019閲覧。[リンク切れ]
- ^ “VENEZIA 76 - Il Premio Edipo Re a "Corpus Christi" - CinemaItaliano.info” (イタリア語). www.cinemaitaliano.info. 7 September 2019閲覧。
- ^ “Biennale Cinema 2019 | Collateral Awards of the 76th Venice Film Festival” (英語). La Biennale di Venezia (7 September 2019). 7 September 2019閲覧。
- ^ Barraclough, Leo. “Toronto Entry Corpus Christi Selected as Poland's Candidate in Oscar Race” (英語). Variety 13 September 2019閲覧。
- ^ a b “THE 92ND ACADEMY AWARDS”. oscars.org. 2020年10月5日閲覧。
- ^ a b c d “第92回アカデミー賞(R)ノミネート!映画『聖なる犯罪者』がデジタル配信&ブルーレイ発売決定!豪華吹替声優陣からのコメントも到着”. PONY CANYON NEWS (2021年4月28日). 2024年8月4日閲覧。
- ^ Vourlias, Christopher (1 September 2019). “Polish Director Jan Komasa on Venice Days, Toronto Player Corpus Christi” (英語). Variety 1 April 2020閲覧。
- ^ Kenigsberg, Ben (18 February 2020). “Corpus Christi Review: An Ex-Convict Finds His Calling” (英語). The New York Times 1 April 2020閲覧。
- ^ “"Boże ciało" robi furorę na świecie. Powalczy nie tylko o Oscara, ale i Złote Globy ["Corpus Christi" makes a sensation across the world. He will fight not only for the Oscar, but also Golden Globes]” (Polish). Newsweek Polska. (28 October 2019) 1 April 2020閲覧。
- ^ Ramos, Dino-Ray (6 January 2020). “'Corpus Christis Mateusz Pacewicz And Bartosz Bielenia Talk How A Polish Film About Fake Priesthood Became A Universal Story” (英語). Deadline.com 1 April 2020閲覧。
- ^ “Film ,,Boże Ciało", który ma szansę na Oscara, kręcono w Tabaszowej. Odnaleźliśmy słynną barkę” (ポーランド語). dts24.pl 4 August 2020閲覧。
- ^ 金 2021, p. 20.
- ^ "Corpus Christi". Rotten Tomatoes (英語). 2021年11月6日閲覧。
- ^ Debruge, Peter (13 January 2020). “Corpus Christi: Film Review” (英語). Variety 1 April 2020閲覧。
- ^ Lemire, Christy (19 February 2020). “Corpus Christi” (英語). RogerEbert.com 1 April 2020閲覧。
- ^ “Oscar nominee ‘Corpus Christi’ is an absorbing, spiritually attuned drama” (英語). The Washington Post 5 August 2020閲覧。
- ^ Wróblewski, Janusz (12 October 2019). “Recenzja filmu: "Boże Ciało", reż. Jan Komasa [Movie review: "Corpus Christi", dir. Jan Komasa]” (Polish). Polityka 1 April 2020閲覧. "Trzyma w napięciu lepiej niż klasyczne westerny, egzorcyzmując najciemniejsze polskie kompleksy."
- ^ “11 Polish Eagles have landed for Corpus Christi” (英語). Cineuropa - the best of european cinema. 14 March 2020閲覧。
参考文献
編集- 金恵玉 編『聖なる犯罪者』ハーク、2021年1月15日。