ヒューリスティック
ヒューリスティック(英: heuristic、独: Heuristik)または発見的(手法)[1] [2]:7 [3]:272とは、必ずしも正しい答えを導けるとは限らないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法である。発見的手法では、答えの精度が保証されない代わりに、解答に至るまでの時間が短いという特徴がある。
主に計算機科学と心理学の分野で使用される言葉であり、どちらの分野での用法も根本的な意味は同じであるが、指示対象が異なる。すなわち、計算機科学ではプログラミングの方法を指すが、心理学では人間の思考方法を指すものとして使われる。なお、論理学では仮説形成法と呼ばれている。
計算機科学
編集計算機科学では、コンピューターに計算やシミュレーションを実行させるときに、発見的手法を用いることがある。たいていの計算は、計算結果の正しさが保証されるアルゴリズムか、または計算結果が間違っているかもしれないが誤差がある範囲内に収まっていることが保証されている近似アルゴリズムを用いて計算する。しかし、そのような方法だと、計算時間が爆発的に増加してしまうようなことがある。そのような場合に、妥協策として発見的手法を用いる。発見的手法は、精度の保証はないが、平均的には近似アルゴリズムより解の精度が高い。また、発見的手法の中でも、任意の問題に対応するように設計されたものは、メタヒューリスティックという。
発見的仮定
編集アルゴリズムの近似精度や実行時間を評価したいが、真面目に評価するのが困難な場合、アドホックな仮定(妥当な仮定に見えるものの、その正しさを証明できないような、その場しのぎの仮定)をおいて評価を行うことが多い。こうした仮定のことを「発見的仮定」と呼ぶ[4]:82。
アンチウイルスソフトウェア
編集近年のアンチウイルスソフトウェアでは、ヒューリスティックエンジンを搭載したものが増加してきている。また、フリーソフトにも搭載されており、その進展を見せている。ただし、個々のソフトの発見的機能は同じでも、その仕組みは異なっているものが多い。
心理学
編集心理学における発見的手法は、人が複雑な問題解決などのために、何らかの意思決定を行うときに、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指す。これらは、経験に基づくため、経験則と同義で扱われる。判断に至る時間は早いが、必ずしもそれが正しいわけではなく、判断結果に一定の偏り(バイアス)を含んでいることが多い。なお、発見的手法の使用によって生まれている認識上の偏りを、「認知バイアス」と呼ぶ。
発見的手法の例
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ 萩下 & 大崎 2008.
- ^ 竹原 2011.
- ^ 玉置 2007.
- ^ 洪 & 高梨 1990.
参考文献
編集- 萩下敬雄; 大崎純 (2008-11-30). “発見的手法と非線形計画法の統合による離散構造の位相最適化”. 日本建築学会構造系論文集 (日本建築学会) 73 (633): 1959-1965. doi:10.3130/aijs.73.1959.
- 竹原有紗 (2011-05-01). “用語解説:第7回テーマ:ヒューリスティックアプローチ”. 電気学会論文誌B (電気学会) 131 (5): 5-7. doi:10.1541/ieejpes.131.NL5_7.
- 玉置久 (2007-04-10). “最適化”. 計測と制御 (電気学会) 46 (4): 268-273. doi:10.11499/sicejl1962.46.268.
- 洪起; 高梨晃一 (1990-12-30). “信頼性理論に基づく最適設計 : 強度の経年劣化を考えた構造物の荷重係数”. 日本建築学会構造系論文報告集 (一般社団法人日本建築学会) 418: 81-86. doi:10.3130/aijsx.418.0_81.
- 中島秀之、高野陽太郎、伊藤正雄『岩波講座 認知科学 8 思考』岩波書店、1994年、10,112頁。ISBN 9784000106184。
- 鹿取 廣人・杉本敏夫編『心理学』(第2版)東京大学出版会、2004年、174頁。ISBN 9784130120418。
- 市川伸一「第六章 第一節 不確かな状況におけるヒューリスティックス」『考えることの科学-推論の認知科学への招待』(第2版)中央公論新社〈中公新書〉、1997年、110-113頁。ISBN 9784121013453。
- T. ギロビッチ 著、守一雄・守秀子 訳『人間この信じやすきもの-迷信・誤信はどうして生まれるのか』新曜社、1993年。ISBN 9784788504486。