アムロサウルス学名Amurosaurus)は、6600万年前にあたる白亜紀最後の時代マーストリヒチアン[1]の東アジアに生息した、ランベオサウルス亜科に属するハドロサウルス科恐竜の属。鶏冠は発見されていないものの、大半のランベオサウルス亜科と同様に、アヒルの嘴のような形状の吻部と内部が空洞の鶏冠を持つ二足歩行の植物食性動物だったとみられている。成体の化石は希少であるが、最低で全長6メートルに達した可能性が高い。古生物学者グレゴリー・ポールによると、全長約8メートル、体重約3トンに達した[2]

アムロサウルス
生息年代: 白亜紀後期マーストリヒチアン, 70–66 Ma
ブリュッセルにて、レプリカ骨格
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 鳥盤目 Ornithischia
亜目 : 鳥脚亜目 Ornithopoda
上科 : ハドロサウルス上科
Hadrosauroidea
: ハドロサウルス科
Hadrosauridae
亜科 : ランベオサウルス亜科
Lambeosaurinae
: アムロサウルス属
Amurosaurus
学名
Amurosaurus
Bolotsky & Kurzanov, 1991
  • A. riabinini Bolotsky & Kurzanov, 1991
    (模式種)

発見

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ホロタイプの下顎
 
骨格復元

ロシアの古生物学者ユーリ・ロボトスキーとセルゲイ・クルザノフが1991年に初めてアムロサウルスを記載・命名した。属名はアムール川ギリシャ語で「トカゲ」を意味する sauros に由来し、この川はロシアと中国の国境をなす。模式種アムロサウルス・リアビニニのみが知られており、種小名は1916年から1917年にかけてアムール地方で恐竜化石の発掘調査を行ったロシアの古生物学者 Anatoly Riabinin を称えたもの[3][4]

アムロサウルスの化石は全て極東ロシアアムール州ブラゴヴェシチェンスクに位置する同一のボーンベッドから1984年に発見されている。このボーンベッドは Udurchukan 層で発見されており、ロシア東部と中国北東部に分布する Tsagayan 層群において最古の層である。この層は白亜紀後期マーストリヒチアンにあたり、約6800万年前に堆積したと考えられ、北アメリカでのランシアンの直前になる。バラバラになって無造作に配置されてはいるが保存状態は良好なボーンベッド内の骨から判断して、堆積物は化石をわずかな距離だけ運搬して川の氾濫原に横たわったとされる。ボーンベッドの露出している領域は広くないが、これまで発見された化石の90%は大半は幼体であるランベオサウルス亜科のアムロサウルスに属し、残りはサウロロフス亜科に属するケルベロサウルスである。獣脚類の歯も豊富で、捕食動物や腐肉食動物に由来する傷が骨に数多く確認されている。

ホロタイプは同一個体の左半身に由来する単一の上顎骨歯骨のみからなる。しかし、夥しい数の別個体ではあるものの、頭骨の他の骨や全身の骨の大半がボーンベッドに保存されている。他の骨格要素が後に記載され、アムロサウルスはロシアの恐竜の中で最も豊富で完全に知られた属となった[4]

記載

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生体復元図

アムロサウルスは数多くの固有派生形質あるいは特異的な形質で特徴づけられる。例を挙げると頭骨のほか、正面または側面から見た場合に尺骨がS字型になるなどである。他の大半のランベオサウルス亜科は頭頂部に空洞のある鶏冠を持ち、アムロサウルスにおいてそのような鶏冠をなす骨は発見されていないものの、頭頂部の骨は鶏冠の支持に理想的であるため、アムロサウルスもまた鶏冠を持っていたと推測されている。

分類

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復元された頭骨

2006年の上半期にアムロサウルスの特徴の大半が記載されて分岐学的解析にかけられ、ハドロサウルス科ランベオサウルス亜科の基盤的な属に位置付けられた。ただしチンタオサウルスジャクサルトサウルスよりは派生的である。

基盤的なランベオサウルス亜科は全てアジアから出土しており、ランベオサウルス亜科がアジアで出現してベーリング海峡を渡って北アメリカへ拡散したという仮説が導かれた。2つの派生的なグループであるパラサウロロフス族パラサウロロフスカロノサウルス)やランベオサウルス族コリトサウルスニッポノサウルスおよびランベオサウルスなど)は後に進化した。これらのグループの属は北アメリカとアジアの両方で発見されており(明確ではないがヨーロッパからも1つ知られている)、どちらの方向に拡散したかは不明なものの、彼らが進化した後にさらに拡散したことが証明されている[4][5]

以下は、Prieto-Márquez らによる2013年の研究で示された系統樹に基づくクラドグラム [6]

 ランベオサウルス亜科 
アラロサウルス族

アラロサウルス

カナルディア

ジャクサルトサウルス

チンタオサウルス族

チンタオサウルス

パララブドドン

パラサウロロフス族

カロノサウルス

パラサウロロフス

パラサウロロフス・キルトクリスタトゥス

パラサウロロフス・チュビセン

パラサウロロフス・ウォーケリー

ランベオサウルス族
ランベオサウルス

ランベオサウルス・ランベイ

ランベオサウルス・マグニクリスタトゥス

コリトサウルス

コリトサウルス・カスアリス

コリトサウルス・インテルメディウス

"ヒパクロサウルス"・ステビンゲリ

ヒパクロサウルス

オロロティタン

アレニサウルス

ブラシサウルス

マグナパウリア

ヴェラフロンス

アムロサウルス

サハリヤニア

出典

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  1. ^ Godefroit, P., Lauters, P., Van Itterbeeck, J., Bolotsky, Y. and Bolotsky, I.Y. (2011). "Recent advances on study of hadrosaurid dinosaurs in Heilongjiang (Amur) River area between China and Russia." Global Geology, 2011(3).
  2. ^ Paul, G.S., 2010, The Princeton Field Guide to Dinosaurs, Princeton University Press p. 308
  3. ^ Bolotsky, Y.L. & Kurzanov, S.K. 1991. [The hadrosaurs of the Amur Region.] In: [Geology of the Pacific Ocean Border]. Blagoveschensk: Amur KNII. 94-103. [In Russian]
  4. ^ a b c Godefroit, P., Bolotsky, Y.L., & Van Itterbeeck, J. 2004. The lambeosaurine dinosaur Amurosaurus riabinini, from the Maastrichtian of Far Eastern Russia. Acta Palaeontologica Polonica 49(4): 585–618. Available online as PDF Archived December 24, 2005, at the Wayback Machine.
  5. ^ Suzuki, D., Weishampel, D.B., & Minoura, N. 2004. Nipponosaurus sachalinensis (Dinosauria, Ornithopoda): anatomy and systematic position within Hadrosauridae. Journal of Vertebrate Paleontology. 24(1): 145–164.
  6. ^ A. Prieto-Marquez, F.M.D. Vecchia, R. Gaete and A. Galobart, 2013, "Diversity, relationships, and biogeography of the Lambeosaurine dinosaurs from the European archipelago, with description of the new aralosaurin Canardia garonnensis", PLoS One 8(7): e69835