たぬき丼
たぬき丼(たぬきどん)もしくはハイカラ丼(ハイカラどん)は、日本の丼物の一つ。丼鉢に盛った飯の上に、具として天かす(揚げ玉)[3]、または鶏卵でとじた天かすを乗せたもの[1]。主に関東地方の蕎麦屋などで提供されている他[1][4]、料理書籍や料理関係のウェブサイトなどで、簡単にできて満腹感の得られる丼物として紹介されている[2][4]。滋賀県甲賀市信楽町のご当地グルメでもある[5]。
天かすのみのたぬき丼
編集国語辞典『大辞泉』での定義によれば、「たぬき丼」は、熱い飯の上に天かすをのせ、天つゆをかけた丼とされる[3]。
簡単な料理を多数紹介する漫画『セイシュンの食卓』でも、手早く料理できる上に満腹感も得られる料理として「カンタンたぬき丼」の名で紹介されている[2]。口当たりを良くするため、飯の上に大根おろしを乗せ、その上に揚げ玉を乗せるよう工夫されている[2][* 1]。
テレビ東京の情報バラエティ番組『出没!アド街ック天国』では、2009年(平成21年)3月に、東京都台東区内の食事処で、常連客が無料サービスの揚げ玉を飯にふりかけ、醤油をかけて「たぬき丼風」にして食べると紹介された[7]。
ルーツ
編集『大辞泉』では、東京都の早稲田大学近くの弁当屋が、たぬき丼の元祖という説が紹介されている[3]。
同書では店名を明記していないものの、早稲田大学近くの新宿区西早稲田の「わせだの弁当屋」のメニューには、「たぬき丼」の名の弁当が存在する。揚げ玉とネギだけを丼の具にし、甘辛いタレで仕上げ、わずかにコンブ、金平ゴボウ、柴漬を添えただけのもので、ボリュームと安価を特徴としている[8][9]。
同店によれば、かつての社長が考案したメニューとされる[8]。弁当の具に揚げ物が多く、天かすがよく出るため、その天かす自体を弁当の具とし、貧乏な学生向けに開発したので、安価なのだという[8]。
先述の『出没!アド街ック天国』でも2008年(平成20年)6月に、西早稲田の名所の一つとして同店が紹介され、たぬき丼についても触れられた[10]。
天かすを卵でとじたたぬき丼
編集天かすとたまねぎなどを卵でとじて白飯にのせた「たぬき丼[1][11][* 1]」は、天かす入りの玉子丼と考えれば理解しやすい。主に首都圏の蕎麦屋などで親しまれている[4]。
著作家の東海林さだおは、東京都渋谷区内の蕎麦屋で、このたぬき丼を食べた体験を自著『ゴハンの丸かじり』で紹介している[1]。東海林は、汁を吸った揚げ玉と卵の食感、それらの具と飯の調和を「美味」と評価する一方で、食べ慣れている親子丼やカツ丼と比較し、衣の中身が無いことに多少の寂しさを述べている[1]。また、たぬき丼を注文した際、周囲の客が誰も関心を示さなかったことから、東海林はたぬき丼を、東京の蕎麦屋ではごくありふれたメニューと見ている[1]。
テレビ西日本のローカル情報番組『ももち浜ストア』では、2016年(平成28年)8月の放送で、蕎麦屋の賄い料理として紹介されている[11]。
NHKで簡単な料理を紹介する料理番組『きょうの料理ビギナーズ』でもレシピが紹介されており、揚げ玉のコクと卵の旨味が評価されている[12]。
信楽町のたぬき丼
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信楽町のたぬき丼の一例 - 信楽町観光協会 |
信楽焼のタヌキで知られる滋賀県甲賀市信楽町では、2010年(平成22年)に開催された芸術イベント「信楽まちなか芸術祭」の目玉企画として、信楽町のご当地グルメ「たぬき丼」が考案された[13]。このときに取材漫画家兼イラストレーターの新里碧[* 2]により製作された食べ歩きガイドの地図「たぬき丼マップ」は、朝日新聞や中日新聞に取り上げられ、NHKの取材も入り、大きな反響を呼んだ[15]。
翌々年の2012年(平成24年)には、同町のイベント「信楽狸かえるでぇ〜・2012」に伴う期間限定商品として、このたぬき丼が町内の各店で提供された[13][17]。その後も2018年(平成30年)に至るまで毎年、「信楽たぬきの日」に定められた11月8日に合わせて、期間限定で提供されている[5][18]。
信楽のたぬき丼は「天かすを使った丼[17]」「各店舗おすすめの、美味しく化けた丼[19]」のみが定義とされており、それ以外は各店ごとに独創的なアイディアに富んでいる[13]。タヌキをあしらった器、近江地鶏や卵の入った丼、ハンバーガー仕立ての「たぬきバーガー」、インドネシア風の甘辛い味付けなど、様々な趣向が凝らされている[13][20]。
その他
編集料理研究家のシラサカアサコ[* 3]は、夜遅い帰宅後も手早くできて美味、カロリーも控え目の「おそごはん」と称するメニューの一つとして、揚げ玉と豆腐を炒めて丼の具とする「とうふたぬき丼」を紹介している[22]。
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カツオチャンジャのたぬき丼 - 満天☆青空レストラン |
バラエティ番組『満天☆青空レストラン』で2017年9月に紹介された「カツオチャンジャのたぬき丼」は、天丼のように天かすを飯に乗せるのではなく、飯に混ぜ合せた料理であり、味付けも天丼とは異なる[23]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f g 東海林 2002, pp. 184–187
- ^ a b c d たけだ 1987, p. 49
- ^ a b c d 松村監修 2012, p. 2260
- ^ a b c “揚げ玉で手軽に天ぷら食感! すぐにできる「たぬき丼」”. ペコリ. サイバーエージェント (2016年6月6日). 2018年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月10日閲覧。
- ^ a b “たぬきグルメチラシ”. ほっとする信楽 (信楽町観光協会): p. 2. (2017年10月20日) 2018年11月10日閲覧。
- ^ たけだみりこ、東京ブリタニアン『セイシュンの食卓』 2巻、角川書店〈角川文庫〉、1996年2月25日(原著1988年)、61頁。ISBN 978-4-04-197202-1。
- ^ “傳丸(柳橋)”. 旅グルメ. テレビ東京 (2009年4月4日). 2018年11月10日閲覧。
- ^ a b c 牛嶋健 (2014年6月12日). “弁当屋でまさかのマシマシ!「わせだの弁当屋」はボリュームが鬼ハンパない”. マイナビニュース (マイナビ) 2018年11月10日閲覧。
- ^ P.K.サンジュン (2015年7月11日). “【激安&激ウマ】米と揚げ玉が1:1! 超カロリー上等「わせだの弁当屋」の『たぬき丼』が男らしすぎる!! しかもたったの250円ッ!!”. ロケットニュース24 (ソシオコーポレーション) 2018年11月10日閲覧。
- ^ “わせだの弁当屋”. 出没!アド街ック天国. テレビ東京 (2008年6月14日). 2018年11月10日閲覧。
- ^ a b “激ウマたぬき丼”. ももち浜ストア. テレビ西日本 (2016年8月17日). 2018年11月10日閲覧。
- ^ 河野雅子 (2016年5月10日). “たぬき丼”. きょうの料理ビギナーズ. 日本放送協会. 2018年11月3日閲覧。
- ^ a b c d 花井勝規 (2012年11月14日). “たぬき丼 器や味付けにこだわり 甲賀・信楽の10店 期間限定で復活”. 中日新聞 朝刊 (中日新聞社): p. 19
- ^ a b 新里碧 (2011年10月14日). “80日間チャレンジ 3人娘 離島リレーリポート”. 中日新聞 朝刊: p. 18
- ^ a b 江川知里 (2016年11月20日). “「辞めるのは特別なことじゃない」“外資系キラキラ女子”が会社を辞めたワケ”. ウートピ. 協和. 2018年11月10日閲覧。
- ^ a b “about me”. 新里碧. 2018年11月10日閲覧。
- ^ a b “復活! たぬき丼”. ほっとする信楽 (2012年). 2018年11月10日閲覧。
- ^ “11月の信楽は狸三昧!「見て・買って・食べて」たぬきイベントを楽しもう!|滋賀ガイド!”. ほっとする信楽 (2018年). 2018年11月10日閲覧。
- ^ 森岡進一「カメラで巡る日本遺産滋賀信楽の旅」『滋賀縣人』第190号、東京滋賀県人会、2017年8月1日、15頁、2018年11月10日閲覧。
- ^ “復活! たぬき丼” (PDF). ほっとする信楽 (2012年11月). 2018年11月10日閲覧。
- ^ 谷本有香 (2015年4月). “SNSを活用して輝く女性たち”. 東京ウーマン. 東京片岡英彦. p. 2. 2018年11月10日閲覧。
- ^ シラサカアサコ『あさこ食堂の一緒に食べたいおそごはん!』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年11月15日、38-39頁。ISBN 978-4-7993-1247-6 。2018年11月10日閲覧。
- ^ “カツオチャンジャのたぬき丼”. 満天☆青空レストラン. 日本テレビ放送網 (2017年9月). 2018年11月10日閲覧。
参考文献
編集- 東海林さだお『ゴハンの丸かじり』朝日新聞出版〈丸かじりシリーズ〉、2002年10月30日。ISBN 978-4-02-257800-6。
- たけだみりこ、東京ブリタニアン 著、フロム・エー編集部 編『セイシュンの食卓 Easy cooking comic』 1巻、KADOKAWA、1987年7月20日。ISBN 978-4-88991-086-5。
- 小学館大辞泉編集部編 編『大辞泉』 下、松村明監修(第2版)、小学館、2012年11月7日。ISBN 978-4-09-501213-1 。2018年11月10日閲覧。